チュイナ・メルトダウン~華世界~

        

チュイナ・メルトダウン~華世界~

category - チュイナ・メルトダウン~華世界~
2014/ 07/ 23
                 
チュイナ・メルトダウン~華世界~  (創作小説)

第一話  ハン・センカ


 歴史と伝統のある国、チュイナ華国。

チュイナ一万年の歴史は誰も憶えてる訳無いよな。
国土面積が広すぎて人口が爆発的に増え続ける。
子供を一人だけ産む家庭は政府から多額の生活支援が貰える。
金儲けと殺しとセックスとヤクにまみれた国だ。
メディア産業は絶対に裏の世界を語らない、観なくても馬鹿には成らない。表と裏が激しすぎる。
経済は悪どいベクトルでコンベア式に運ばれる。
俺はこの街で産まれて泥にまみれて育った。
どんなに綺麗ごとを語っても所詮は金だ、金がモノを言う。
カネは語るのだ、貧乏は死ねと。
学校へなんて通う贅沢な金はない。ガキだってゼニは数えられる。
ナベで沸かした湯を飲んで茶碗のコメ飯にチャー油をぶっかける。
高層ビルが立ち並ぶ市街地はもう人間が住む場所じゃない。

今日の俺の装備はオートマチック式拳銃。
前のオーナーが好きモノだったらしい。
使い込まれて何度も金属表面コーティングと研磨を繰り返してある。
軽量化と残弾数増加。精度を高めてジャムを奇跡的に減らす。
プロの職人芸だ。材質を見極め火薬の消炎を決して裏切らない。
武器とは商売なのだ。
この国では商売が全てだ。殺しも金に成る。
売れないものなどない。
偽物を作って客に売る。コピーが低コストで利益を生む。
所詮法律など貧乏な弱者には無縁な高級品だ。

もう日が暮れてくる時間。
ビルの隙間を黒いカラスが群れて旋回する。
オレンジ色に染まる近代都市は・・・

「きったねえ街だなあ」
「お前らみたいな死神が来る街だ、言うより何処にでもたかるアリだ」

「撃墜してやりてえな!」

チャキ

撃鉄を引いて狙いをつける。あの黒いアホ鳥が良い。

「あ、スプーキーをつけてないや」

サイレンサーを急いで銃身に付ける。

バン!

裏路地の一つのビルの裏口ドアが開いた。
土はぬかるんで赤茶色。表通りと裏通りじゃ天国と地獄だ。

「センカさん!」
「やめなよ、ちゃんと報酬を持ってきたからさ!」

上空に向けて片手で拳銃を構えたまま真横に顔を向ける。

「チャムさん」
「カネを早くよこせばこんなヒマ潰しをしなくても良かったんだ」

俺の仕事着のスーツが汗と泥でヨレヨレだ。濃いグレイ色は血液も隠すんだろうな。
カネを稼いでもっと着替えのスーツを買わないと。

「ぶっ」

乾いた風が砂塵とともに化学物質を運んでくる。汚染廃棄物質だ。
光化学スモックで大気が黄色い、肺がもはや病んでいるな。
マスクをつけるのが常識だが。

「あんたもマスクをつけない一族かい、ハン・センカ」
「ほら、残りの金だよ」
「あたしらネハルは伝統を守る悪だからね」

「ああ、キャッシュしか荒んだ心は慰めちゃくれないんだぜ」

チャムと俺が呼んだこの若い女も、肌が黄色く髪と瞳が黒い。
よその国も皆似た様な見た目だからスパイが紛れ込んでても判りゃしない。いきなり始末されても死んでからじゃ助けを呼べないからな。
雑居ビル群の狭い路地裏で、二人向き合って立ち話。
この若い女がOLの服を着ているのはカモフラージュだな。中身は良い身体みたいだが、平気で寝た男を撃ち殺すんだろうな。
化粧が本性を隠すんだろ?

「その紙切れであたしを抱くかい?」

「冗談みたいに言っても本気なんだろ」
「だいたいあんたが裏で何やってるのか言ってやろうか」
「どう見てもあんたは淑女じゃないな」
「買ってやるから本名くらい教えろよ」
「チャム・スワイ嬢」

「・・・はは」
「あたしがまたバイヤーにコネつけてやるぞ」
「自動小銃が欲しいんだよね」
「あんたはウエポンにはケチらないんだ」
「用心深い男は悲しい男だ」
「言うよりそのチャカをしまえよ・・・」

風が吹いた。

チャム・スワイの長い黒髪が風に流されてゆく。
ひとえの黒いつり目が俺を凝視して突き刺す。

「あんたと恋を語らっている程ヒマじゃないんだ」
「じゃあな、次回の仕事の時にまた来る」

「ハン・・・あたしは夜中に4番街の竜屋台でいつも飲んでる」
「仕事の話じゃないぞ」


もう日が沈んできた。暗くなる前に帰宅して色々する事がある。
女なんて金があれば困らないが。この女は恋をしたいらしい。

振り返り歩き出す。
右手を軽く上げて後ろで立っている筈のOLへ告げる。

「また縁を」

「またご縁を」


ホルスターに武器をしまう。上着の内ポケット側に張り付く化学樹脂の裁縫製品は、軽量で頑丈だ。

夜中に組織の幹部らに会って話を聞く。講義だ。
新しい商売の知識、科学テクノロジーの学習をする為に。