2016/07/03

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涙の海を完泳せよ3

category - ショート小説
2016/ 07/ 03
                 
今日学校帰りに歩道の石を蹴った。

彼女はふてくされた顔で屋台のたい焼きを買ってきた。

セーラー服を脱ぎ散らかして、携帯電話を放り投げる。

学校でつまらないことがあったから。

ほんの些細なことで同級生と言い争いになった。

本当につまらない原因。

スウェットスーツに着替えてからベッドに突っ伏す。

ボム

グスグス泣きながら熱いたい焼きを食べる。

あんこが少ないなとか思いながら、彼女は明日の身体測定を気にする。

弟のタイゾウが不登校でひきこもりだから、親がいつも怒っている。

変に優しくして甘やかしてはいけないと言う親。

彼女は知っている。

誰もが寝静まった深夜2時、タイゾウが一人で出かける。

最近毎日だ。

ある日気になって彼を尾行した。

暗い夜道で彼女は何回かコケたが、彼は夜目が良い様だ。

町外れの小高い丘を駆け上ると階段の先に、広い展望台がある。

いきなり現れた彼越しの満天の夜空に、心がときめいてしまった。

「うわあ・・・」

「おねーちゃん!」

タイゾウが驚いて振り向く。

彼は寝巻きのままここに来ているようだ。

周りに高い建物がないから夜空が天の川一色だ。

学校の理科の教科書で見たような星の地図が目の前に広がる。

彼女はコンクリの踊り場で黙って踊りだした。星がお客に思えた。

「おねーちゃん」

何も会話はなかったが、何も問題は起きなかった。

一時間ほど二人並んで天の川を眺めてから言う。

「綺麗だねタイゾウ」

「うん」


それから毎日の会話は無い。

でも知っているから。弟が人生を諦めてはいないことを。

朝が来るまでの瑠璃色の空、ベッドで天井を見つめる。

明日はあの娘にどんな顔で会えば良いんだろう。

ごめんと一言が言えない。

たった一言が言えないだけでこんなに困るのに。

あれからいつも天の川銀河を思い出す。

夜はいつも静かだ、ここらへんはへき地だから。

誰かといっしょがいいな。ひとりぼっちはさみしいから。


弟はいつも一人で泣いているのに、親に何も文句を言わない。

「星に話しかけるのかな」

ほかの同級生の娘と話したこと。

遠足でフェリーに乗ったとき。

「ねえみっちょん」「あの水しぶきは生きてるのよね」

「ええ?」「確かに生きてるように見えるよねえ」「あははは」

なんで記憶はあるのかな。

なんで都合よく消えたり覚えたり出来ないんだろ。

「・・・・」

がば

またあの展望台へ行きたくなった。

今度はコケずに来られたが、タイゾウは居なかった。

時間が違うのだろう。

「うわあ」

今日も快晴の満天夜空だ。


「ふんふんふん♪」

誰かに見られてたらなんて踊る理由には成らないよ。

今夜は私も寝巻きだ。ひきこもりってイカス・・・

朝までこうしていたいな。何も考えずに。


「星のお客さんは何億人?」


明日の朝が来たら、また学校であの娘に「おはよう!」て言おう。

いつもの笑顔で。

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